Exhibition

和田礼治郎 “Scarlet”

2017年1月21日(土)– 2月19日(日)

SCARLET- Door, 2015, wine, tempered glass, brass, stainless steel, CO2
©Reijiro Wada, Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

21 January - 19 February, 2017
土日のみ開廊 12:00 - 19:00 Open Saturdays and Sundays

オープニングレセプション 2017年1月21日(土) 18:00 - 20:00
Opening Reception 18:00 - 20:00, Saturday, 21 January, 2017

和田礼治郎の作品は、時代を超越して古今の美術史に源泉を見出し、それは17世紀フランドル絵画およびそれらに繰り返し登場する“ヴァニタス (虚栄) ”の主題から、バウハウス、ランド・アートにまで及ぶようだ。
生の儚さを喚起する“ヴァニタス (虚栄) ”の主題は、果実といった、腐り、消えていく生の素材を用いる和田作品が頻繁に取り扱うテーマである。《Still Life》(2016) では、時が静止したかのように、みずみずしい果実が二枚のガラス板の間にしっかりと挟み込まれている。しかし、空中に留まっていた果物は、刻々と経過する時間とともに腐敗し、やがてそこから滑り落ちる。ガラス板に痕跡だけを残して。このような時間の捉え方は、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーを想起させるものがある。過去/現在/未来といった、川の流れのように直線的に捉えられる通常の時間概念を破棄したハイデガーの“時”とは、おのずから生成し、“熟す (時熟する) ”ものであり、ここでは和田の“果実”がそれを物語る。《VANITAS》(2016) は、作家が投げつけた果物の果汁が、真鍮版を腐食した痕跡だけを残す作品である。動きを捉えたその瞬間は、永遠の今に閉じ込められている。“ヴァニタス (虚栄) ”が、我々全ての人間に対し死を喚起するならば、果実はその種子によって生を存続させることを、また連想させるものだ。死は終わりではなく、新たな生への可能性なのである。
和田作品には前衛芸術からの影響も見受けられる。矩形や菱形といった幾何学形態が特徴的な《Portal Landscape》シリーズは、色彩と形態の関係性について研究を深めたジョセフ・アルバースやマックス・ビルを彷彿とさせる。中に含まれているのは、ワインやブランデーである。壁、ブランデー、額縁の色が三位一体の様相を醸す《MITTAG》(2016) は、静穏さとある種の到達を感じさせる。和田は、果実/ワイン/ブランデーという同一素材の状態変化のうちに、生命の存在様式の段階的な昇華をイメージしている。ワインは、キリストの血の象徴、バッカス神の霊薬といった例が示すように、あらゆる文化において永遠性や生命力に結びついている。作家は《Scarlet》シリーズ、とりわけ《Scarlet Window》(2016) において、この特徴的で深淵な色彩を引き立てている。本作は、《French Window (フランス式窓) 》という言葉遊びが含まれたマルセル・デュシャンの作品《Fresh Widow (なりたての未亡人) 》(1920) を喚起する。ガラス部分を黒い皮で覆ったデュシャンの“見えない”窓は、見ることそのものに問いを投げかける作品である。本作は、これと似たようなパラドックスを提示する。ワインという、時とともに熟成していく液体を内に抱えた和田の窓は、一方で壁に固定され、採光および通風といった本来の窓の目的を果たすことのない、沈黙のオブジェである。
最後に、ランド・アートおよびその自然の系譜に繋がるこの日本の作家は、自然の素材を用いるだけなく、環境に直接的に働きかけ、知覚に作用を及ぼす。2004年の《VIA》と題されたプロジェクトでは、イタリアのある滝の景観をひそやかに変容させながら、自然に魅了され、感嘆し、そして破壊する、曖昧で矛盾に満ちた我々人間と自然との関係性を表現した。シリーズ制作の《ISOLA》(2010〜2013) においては、形態、液体、時間、自然といった和田の関心の諸要素の全てをそこに見出すことが出来る。和田の矩形は、ときにワインに満たされ、ときに水面に浮かびながら、毎瞬の刹那に漂う。永遠が儚さと戯れている。

ロイック・ル・ガル (ポンピドゥー・センター キュレーター)


和田 礼治郎 (1977年広島市生まれ)
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程彫刻専攻修了。現在、ベルリンを拠点に活動。主な展覧会に「HaL Hofskulptur #1 個展」ハウス・アム・リュッツォープラッツ(2016年)、「禁断の果実 個展」パリ・レコレ国際センター(2016年) 「ヴァニタス」ゲオルグ・コルベ美術館(2014年)、あいちトリエンナーレ(2013年)、「ベルリン・ステイタス(2)」 ベタニアン(2013年)、「クンストカマー No.17 和田礼治郎 個展」ゲオルグ・コルベ美術館(2012年)、「どのように新しさは世界に入って来るのか?ベルリンの9人の国際的彫刻家」ハウス・アム・バルドゼー(2012年) ほか。
www.reijirowada.com


[同時開催]

和田礼治郎 / アリエル・シュレジンガー
REIJIRO WADA / ARIEL SCHLESINGER

会期:2017年1月27日(金)−2月25日(土)
オープニングレセプション: 2017年1月27日(金) 18:00 - 20:00
会場:SCAI THE BATHHOUSE
住所:東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
電話番号:03-3821-1144
開館時間:12:00~18:00 ※日・月・祝は休廊
http://www.scaithebathhouse.com/